『Fastener(ファスナー)1990』 和泉ヒロト



プロローグ



1990年。


センター試験が始まった年。


ストーンズが初来日した年。


ポールが初来日した年。


大阪では「花博」が開催された年。


サッカーワールドカップ・イタリア大会が開催された年。


礼宮文仁親王が紀子さまと結婚した年。


前年にベルリンの壁が崩れて、東ドイツと西ドイツが統一された年。


北京アジア大会が行われた年。


即位の礼があった年。


雲仙普賢岳が噴火した年。


バブル崩壊が始まった年。



1990年。


そして、俺は……25歳。



俺の、何かが変わった年。





9月になっても、激しい暑さが続いていた。


おまけに、立て続けに台風がやって来やがる。



今年は、変な年だ。


きっと何かが起こる……。



俺は狭っ苦しいロフトに寝転がって、すぐ目の前にある天井をじっと見つめていた。



壁に掛けてあるローズウッドの枠の丸い時計の針は、午前4時6分を指していた。



俺の左腕には、池袋のクラブで拾った女が頭を乗っけたままスヤスヤと眠っていた。



何だっけ、この子の名前……。


まぁ、いいか……そんなことは……。



なんか鬱陶しいぜ、まったく……。



女を抱いた後、必ずウザイと感じる。


それは、その女のことを本気で好きではないという証だ。



このところ、いつもそんな感じだ。


だからって、別にいいんだけど。



俺は女を起こさないように、ゆっくりと左腕を引き抜いた。



左腕は、血行が悪くなったのかジンジンと痺れていた。


俺は左腕をブンブン振りながら、女の顔を見つめた。



ふーん、なかなか可愛い顔してるじゃん。



俺は、女に掛けてあったタオルケットをゆっくりと剥がす。



その女は、もちろん全裸だ。


俺は右手の人差し指で、ゆっくりと肌の感触を楽しむように女の腰のラインをなぞる。



「フゥン……」と女は、可愛い声で鳴いた。