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「誰かのためを想って真剣に願えば、願いは叶うの。だけど……」



夏子の姿をした春子が言ったその言葉は、前に一度聞いたことがあった。



「その代償は……必ずやって来るんだよな? 春子……」


「……だから……本当に大切なタイミングでそれを願って欲しいの……本当に大切なタイミングのときだけに……」



夏子の姿をした春子は、じっと亮二を見つめて言った。



「わたしは、自分のために願ってしまった……そして、それは結果としてわたし自身と亮ちゃん、あなた……そして、夏子にも代償を与えてしまったの……」



そうか……。


亮二は、複雑な思いを感じていた。



春子の俺に対する想い……俺の春子に対する想い……そして、夏子の俺への想い……。


そんな想いが重なり合って、有り得ない様々なことが起こってしまったんだ……。



「亮ちゃん、だから……生きて! 夏子のために!」



ハッと気が付いた亮二は、自分がベンチに座っているのに気づく。


そこは、池袋の公園のベンチだった。



頭が痛い……気持ちが悪い……そして、視野が狭くなっている……。



だけど、俺は……まだ生きているんだよな……。



亮二は、力を振り絞って立ち上がる。



そして、夏子のアパートに向かって一歩一歩ゆっくりと歩き始めた。



俺は……生きたい。



俺自身のためではなく、夏子を幸せにするために……。



そうだよな、春子……。