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ベンチに座った亮二は、ただじっと夏子からのメールのタイトルを見つめていた。
どのくらいの時間が経ったのだろう?
その間、亮二はただボーっとケータイの画面を見つめていた。
夏子と初めて逢った、あの日。
俺は赤い傘を差し出した夏子に、戸惑いとともに確かにときめきを感じた。
「だって……これは運命なんだから……」
そう言った夏子の真剣な顔に、確かに俺の心は動き始めた。
そして、夏子が残した腕時計……金色に輝くROLEXに目を奪われた。
夏子を捜す日々は、空しさを感じながらも確かに確信していたんだ。
俺は、また夏子に逢えるんだって……。
夏子……。
俺だって、本当は逢いたいよ……。
だけど、俺は……。
こんなカラダの俺は、夏子に心配と不安を感じさせてしまう。
それは、きっと春子の時の同じような辛さを夏子に与えてしまうんだ。
だから、俺は夏子から離れることに決めた。
きっと、それでいいんだ……。
だけど……。
そのとき亮二は、本当は独りで戦っていた。
どうしようもない不安と寂しさに……。