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亮二は、もう一度腕時計を見た。
時計の針は、9時11分を指していた。
のろのろと立ち上がった亮二は春子の、いや夏子の部屋を目指す。
なぜ、今は春なんだろう……?
なぜ、この季節に?
そんなことを考えながら、亮二はドアの前に立つ。
ひとつ大きく息をついて、ドアの横にあるチャイムを押す。
部屋の奥で、小さく「ピンポーン」と鳴った。
ドアは、すぐに開いた。
「おはよう! 亮ちゃん!」
夏……子?
良かった……。
亮二は、夏子をギュッと抱き締めた。
「ど、どうしたの亮ちゃん!? ちょっと苦しいよ!」
懐かしい夏子の声がする。
俺の右耳の、すぐそばで……。
亮二は、感じていた。
春子に逢えたのは、きっと夢みたいなものなんだ。
季節がずれている?
そんなことは、どうでもいいんだ。
夏子に、また逢えた。
春子を失ったとしても、それは夢なんだから……。
そう思いながらも、亮二の目には涙がにじんでいた。