59


亮二は、もう一度腕時計を見た。



時計の針は、9時11分を指していた。



のろのろと立ち上がった亮二は春子の、いや夏子の部屋を目指す。



なぜ、今は春なんだろう……?



なぜ、この季節に?



そんなことを考えながら、亮二はドアの前に立つ。



ひとつ大きく息をついて、ドアの横にあるチャイムを押す。



部屋の奥で、小さく「ピンポーン」と鳴った。



ドアは、すぐに開いた。



「おはよう! 亮ちゃん!」



夏……子?



良かった……。



亮二は、夏子をギュッと抱き締めた。



「ど、どうしたの亮ちゃん!? ちょっと苦しいよ!」



懐かしい夏子の声がする。



俺の右耳の、すぐそばで……。



亮二は、感じていた。



春子に逢えたのは、きっと夢みたいなものなんだ。


季節がずれている?


そんなことは、どうでもいいんだ。



夏子に、また逢えた。



春子を失ったとしても、それは夢なんだから……。



そう思いながらも、亮二の目には涙がにじんでいた。