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亮二は、そのとき急にあることを思い出していた。



そうだ……。


あの時、確か電話が……。



19年前の8月4日。


俺は春子と、この部屋にいた。



俺たちは、いつものように寄り添いながら。


二人だけの時間を過ごしていた。



そして、あの日春子に電話が掛かって来た。


確かに、そうだった……。



亮二は、あの日のことを必死で思い出していた。



電話を受けたあと春子は、少しだけ元気がないように見えた。


そのときの俺には確かに、ただそう見えた。



そして、それから数日後に春子は俺に言ったんだ。



「亮ちゃん、あのね……わたし……赤ちゃんが出来たかもしれない……」って。



あの電話は、きっと……。



そのとき、春子の部屋の電話が鳴った。



「あっ! 亮ちゃん、ちょっとゴメンね!」



春子はバタバタと部屋の奥に向かって、プッシュホンの電話の受話器を取った。



「はい。……えっ? ……はい、分かり……ました……」



電話を切った春子の表情は、少しだけ青ざめてこわばっていた。