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亮二の意識は、2009年のままだった。
チラッと見た鏡には、19年前の自分が映っていた。
えっ、これって……。
亮二は、自分が着ている服をそのとき初めてまじまじと見た。
亮二の格好は、ジーンズにTシャツ姿だった。
2009年の俺が夏子に逢いに行ったのは、1月のことだ。
当然、寒い冬だ。
俺は、いつものようにモンクレールのダウンジャケットを着ていた。
この姿は、どう見ても夏の格好だ。
と、いうことは……。
亮二は、焦りながら春子に訊いた。
「春子……今日は何年の何月何日だ?」
春子は不思議そうな顔をして、小首を傾(かし)げる。
「教えてくれ、春子!今日は何年の何月何日なんだ?」
亮二の勢いに気おされたように、春子が口を開いた。
「1990年の8月4日、土曜日だよ……どうしたの? 亮ちゃん、何か変だよ?」
「いいや、大丈夫。何でもないんだ……」
亮二は、思い出していた。
春子が消えたのは、8月のことだった。
それは、何日のことだったかは覚えていない。
でも、春子の様子から見ると……。
春子は、まだ俺に伝えていないはずだ。
俺に、妊娠のことを……。