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亮二は、ついにアパートの前に立つ。
懐かしい思いとともに、複雑な感情を亮二は感じていた。
最後に春子に逢ったときのこと。
そして、楽しかった頃のこと……。
長い時間が、少しずつ思い出を風化させていた。
それでも亮二は、はっきりと思い出すことが出来ていた。
あのときの春子の悲しそうな顔と。
そして、春子の笑顔を……。
アパートの外観は、あの頃と少し変わっていた。
19年もの時間が経ったのだから、当たり前だが……。
あの頃は、外観が真っ白い新しいアパートだった。
8戸しかない小さなアパートだが、床はフローリングでロフトもあるおしゃれなアパートだった。
今は、壁の色が薄いブラウンに塗り直されている。
それに、アパートの入り口にある鉄製の門扉も濃いブラウンに塗り直されていた。
亮二は、ゆっくりと門扉を開いてアパートの敷地に入る。
「ギーッ」と、寂しげに蝶つがいが鳴った。
亮二は103号室のドアの前に立った。
ひとつ大きく息をついて、ドアの横にあるチャイムを押す。
部屋の奥で、小さく「ピンポーン」と鳴った。
ドアは、すぐに開いた。
えっ、春……子?