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涙ぐむ夏子を見つめながら亮二は、あの頃のことを思い出していた。



夏子の姿に、あの頃の春子の姿を重ねながら……。



あれから、もう19年の歳月が流れていた。



しかし、亮二にとってあの頃の記憶は鮮明だった。



春子が姿を消したという事実が。


それからの亮二をずっと苦しめていたからだ。



亮二は、あれ以来ずっと自分を責め続けていた。



春子を忘れようと他の女を愛そうとしたこともあった。



しかし亮二は、どうしても春子以上に愛せる女に出逢えなかった。



あの頃。


忙しい毎日の中で、亮二にとって春子は間違いなく安らぎだった。



しかし、仕事の面白さと忙しさに追われていた亮二は。


春子を本当の意味で大切には出来なかった。



あの頃。


春子が抱えていた悩みに、亮二は気づけないでいた。



そして亮二は、春子が消えた理由をあれからずっと考え続けていた。



しかし、今日という日までその理由が分からなかった。



いや本当は亮二は、その理由を知ろうとしなかったのだ。



亮二は、その理由を知りたくなかった。



自分を裏切った春子への恨みとともに。


どうしても消えない春子への愛情を失うのが怖かったから……。



そう。


亮二は、それでも本当に春子を愛していたのだ。