こんなものが偶然にポケットに入るはずがない。



亮二は、夏子が意図的にポケットに入れたのだと確信していた。



見覚えがない時計だった。



どうして夏子は、これを俺に?



亮二は電車に揺られながら考えを巡らせる。


しかし、どうしてもそれらしい理由を見つけることが出来ないでいた。



これを夏子に返さなければ……。


しかし、亮二にはその手立てがなかった。



亮二は、その時計をギュッと握り締めながら決心していた。



俺は夏子に、もう一度逢うんだと。



それから亮二は時間が出来ると、渋谷の街に出掛けた。



夏子にもう一度逢いたい。


逢って、この時計を渡さなければ……。



それは最初、亮二にとって使命感のようなものだったのかもしれない。



しかし、亮二はなかなか夏子を見つけることは出来なかった。



あれから、渋谷に来るのは何回目なのだろう……。



俺は、もうあの子に逢うことは出来ないのかもしれない……。



亮二がそんなことを思い始めた1月の終わりに。



亮二は、ついに夏子を見つけた。