31 『この街に残る、君の香り』
久しぶりに訪れた、この街で。
ぼくは、忘れかけていた君への想いを思い出す。
ずいぶんと時間は経ってしまったけれど。
あのときの、君の笑顔は。
今でも、ぼくの心の奥に。
鮮明な記憶を残していたんだ。
このカフェで、君を待って。
あのレストランで、君と食事をした。
帰り道に繋いだ、ぼくの手に。
少しだけ不安げな笑みを浮かべた君を。
ぼくは、あのとき。
間違いなく愛していた。
君が、ぼくから離れてしまっても。
ぼくは、君を忘れられなかった。
だけど、ぼくが君を追わなかったのは。
遠くへ旅立った君の覚悟を。
ぼくは、良く知っていたから。
君と待ち合わせをした、このカフェで。
ぼくは、あのときと同じメイプルラテを飲む。
そのとき、確かに。
ぼくは感じたんだ。
甘い香りの、奥底に。
間違いなく君が残した香りを。
確かに……。
『この街に残る、君の香り』
了