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ぼくは、また。
ひとつ大きく息を吐いて。
自転車を走らせ始める。
ぼくは、自転車を走らせながら。
有香と過ごした、バーでの会話を思い出していた。
「運命って信じる?ハル……」
有香は「森の妖精」というカクテルを飲みながら。
いたずらっぽく、ぼくに訊いた。
「うん。もちろん……だって、そうじゃなきゃ有香とは出逢えなかったでしょ?」
ぼくがそう言うと、有香は嬉しそうに微笑んだ。
「わたしも信じるよ、ハル……きっと何があっても、ハルと一緒に居たい……」
有香は、そう言って。
真剣なまなざしで、ぼくを見つめていたっけ……。
有香の気持ちは。
あの頃とは、間違いなく変わってしまったんだ。
ひとの言葉なんて。
いや、ひとの気持ちなんて。
時間の流れとともに、簡単に変わってしまうんだ……。
ぼくは、有香のことを。
もう諦めようと思っていた。
有香を追う旅を続けていても。
結局、ぼくは有香の本当の気持ちに気づけないでいた。
有香が悪いんじゃない。
有香を大切にしなかった、ぼくが悪いんだ。
万平通りに自転車を走らせながら。
ぼくは、自分を責め始めていた。