78


旧軽井沢銀座を、しばらく自転車で走って。


ぼくは、テニスコート通りへ右折する。



軽井沢会テニスコートの横を通って。


ぼくは、万平ホテルへと走る。



しばらく走ると、風格のある万平ホテルが見えて来た。



ぼくは、ホテルの入り口で自転車を止めて。


3年前のことを思い出していた。



ぼくたちは、あの夜。


このホテルのバーを訪れた。



古さと風格は、紙一重だと思う。


しかし、やはりこのホテルのバーは。


長い年月が積み上げた、確かな風格があった。



「森の妖精」という。


このバーのオリジナルカクテルを、有香は注文した。



ぼくは、ホットコーヒーを飲みながら。


不思議に落ち着いた時間を楽しんでいた。



落ち着いた色の照明と、木の壁。


エンジ色のじゅうたんが。


いつものぼくたちの生活とは違った。


非日常的な時間を演出していた。



ぼくは、低いテーブルを挟んで。


向かいのソファーに座った有香の顔を。


飽きもせずに、じっと見つめていた。



有香は、少し恥ずかしそうに。


それでも、ぼくの顔をじっと見つめた。



初めてのふたりの旅行は。


とても、幸せだった。



ぼくは、ホテルをボーっと見上げながら。


そんなことを考えていた。