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有香!?
ぼくは高まる胸の鼓動を感じながら。
角を曲がった有香を追いかけるために。
一目散に駆け出した。
「有香……有香!」
ぼくは、心の中で。
有香の名前を何度も叫びながら。
有香が消えた路地へと走りこんだ。
いない……。
ぼくは、左右を見回しながら。
走りながら、路地から分かれる細い路地を確認した。
いない……。
有香が、いない……。
ぼくは、噴出す汗を手で拭いながら。
また、有香を捜して市場の細い路地を走り回る。
ぼくの、目の前の景色は。
なぜか、滲んでいた。
それは、涙なんかじゃなくって。
流れ出る汗が、ただ目に沁みただけなんだ……。
ぼくは溢れ出す涙を拭きながら、有香を捜し続ける。
ぼくが見たのは、間違いなく有香だ。
そう信じ続けながら。
ぼくは、有香を捜し続ける。
しかし。
その日、ぼくは。
結局、有香を探し出すことが出来なかった。