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薄闇に包まれ始めた南大門市場を。


ぼくは、有香の面影を捜して歩く。



有香は、この場所に。


間違いなく、居たのだ。



そして、それは。


ぼくにとって、最高に勇気を与えてくれる事実だった。



ジャケットを買った店で、おじさんは。


有香が独りで現れた、と言うニュアンスでぼくに話をした。



そう信じることを、ぼくが出来たのなら。


もう、それで良いのだ。



有香は、ぼくにサインを残してくれた。


それは、間違いのない事実なのだから。



1時間前に、有香があの店を訪れたとしたら。


まだ市場にいるだろうか?



そんな、不安な気持ちを。


ぼくは、いま感じていた。



だけど、そんな心配を。


今していても仕方ないじゃないか!



とにかく、ぼくは。


いま、有香を捜す。


有香を捜して、必ず捕まえる。



それが、ぼくにとっての愛。


有香への、本物の愛だと信じることが出来たから。



ぼくは、すっかり闇に包まれた。


南大門市場を、歩き続ける。



腕に巻いた、古いTITUS Panther(チタス・パンサー)の針は。


午後8時1分を指していた。