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ジャケットを買った店を探し当てたとしても。
それが、何か意味があるのだろうか……?
ぼくは、そんなことを考えながら。
それでも、その店を捜し歩く。
ぼくには、他にアテなどないのだ。
あの時、有香は。
楽しそうに、ぼくに似合うジャケットを探してくれた。
あの店は、間違いなく。
ぼくと有香の思い出の店なのだ……。
夕日の色が濃くなって。
薄い闇が、南大門市場を包み始めていた。
白熱球の灯りが。
いっせいに灯り始めた、そのとき。
ぼくは、やっとその店を見つけた。
「アニュハセヨ(こんにちは)……あの……この女性が来ませんでしたか?」
ぼくは、前のソウル旅行のときに。
ロッテホテルの部屋で撮った、有香の写真を見せて。
店のおじさんに訊いた。
「今日、来ましたよ……この女性……1時間くらい前に見たよ」
おじさんは、割と流暢な日本語でそう答えた。
やっぱり、有香はソウルに来ている!
「カムサハムニダ、アジョシ!(ありがとう、おじさん!)」
ぼくは、そう声を掛けながら。
店を飛び出して、市場の中を早足で歩く。
有香が、ぼくを待っている。
そう、信じながら……。