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ぼくは、そんなことを考えながら。
不安な気持ちを、必死で押し殺す。
あの旅館を、有香がぼく以外の男と訪れたのは間違いのない事実なのだ。
いくらポジティブに考えようとしても。
やはり、ぼくの心は不安で押しつぶされそうになる。
もしかしたら。
ソウルにも、有香は訪れているかもしれない。
いや、たぶん。
それは、間違いないような気がしていた。
そして、もしも。
有香がまた、あの男と一緒だとしたら。
ぼくは、どうすれば良いのだろう?
小さなデスクの向こう側には。
壁に鏡が貼ってあった。
スタンドライトの光と。
入り口のダウンライトの光が。
ぼくの顔に、暗い影を作っていた。
ぼくは、そんな自分の顔を鏡越しに見つめる。
じっと、自分の瞳を見つめながら。
少しこけた頬の陰を右手で撫ぜる。
暗い瞳の奥に映るのは。
自信を無くしかけた、情けない男の姿だった。
ぼくは、目を閉じて。
あの時の、有香の姿を思い出す。
ふたりで手を繋いで歩いた、南大門(ナンデムン)の市場。
有香は、ぼくを見つめて。
楽しそうに笑っていた。