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あの時、有香は。
ぼくの目をじっと見つめながら、言ったっけ。
「ねぇ、ハル……東京を離れてみると、気づかない? いつも居る場所の大切さに……」
「あぁ、そうかもしれないね。離れてみないと分からない真実ってあるような気がする……」
有香は、そのとき。
なぜか、少しだけ寂しそうな顔で。
ぼくを見ていたような気がする。
そして、有香は。
ゆっくりと、ぼくにキスをして。
その後、言ったんだ。
「離れてから気づくんじゃ、もしかして遅いのかもしれないよね……」って。
あの時、ぼくは。
特に意識もせずに、有香の言葉を受け流してしまった。
有香は、きっと。
あの時から、漠然とした不安を感じていたんだと思う。
そう。
ぼくに対する、不安を……。
ツアーバスは、いつの間にかホテルに着いていた。
今回の宿は、ロッテホテルではなく。
明洞(ミョンドン)のはずれにある、ちょっとグレードが低めのホテルだ。
チェックインを済ませた、ぼくは。
エレベーターで12階に上る。
1203号室の、立て付けの悪いドアの鍵を開けて。
ぼくは、ツインの部屋に入る。
ジャスコで買った、小さめの白いスーツケースを。
ベッドの上に、放り投げるように置いて。
ぼくは、窓から外を見た。