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大理石張りの玄関を通って。


ぼくは、分厚いじゅうたんの上を、フロントに向かう。



「あの、すいません。先ほど電話した、佐伯ですが……」



ぼくが、そう言うと。



「佐伯様ですね。先日は、ご宿泊ありがとうございました!」



佐藤というネームプレートを付けた、フロント係のその女性は。


とても爽やかな笑顔で、微笑んだ。



「あ、はい。とても、のんびりとさせていただきました。……あの、あの時一緒に宿泊した女性のことで……」


「はい。何でしょうか?」


「あの……この女性なんですが、その後この場所に来たりしていないでしょうか?」



ぼくは、有香とこの旅館の部屋で撮った写真を見せる。



その写真は、セルフタイマーで撮影したもので。


浴衣姿のぼくと有香が、肩を寄せ合って写っていた。



「あぁ、この方……」


そのとき、佐藤さんの表情が少し曇った。



「あの……もしかして、昨日この旅館に来ませんでしたか?」



ぼくがそう言うと、佐藤さんは少し困ったような顔をした。



「お願いします!緊急事態なんです。ぼくは彼女に逢わなくてはならないんです!」



ぼくの真剣な表情に、佐藤さんは。


仕方がないな、という風に。


ゆっくりと口を開いた。



「えぇ、確かにいらっしゃいました。でも……」