『ライカとkissと、君からのメール』 和泉ヒロト
プロローグ
1
「今日も、風が強いね……」
ベランダで、真っ白いシーツを苦労しながら干していた君が。
まるで独り言のように、そう呟いた。
海に近いこんな場所では、大きくて強力な洗濯バサミが必要だ。
それも、大量に……。
ぼくは、そんなことを考えながら。
ルーフバルコニーに座って、眩しい初夏の日差しを浴びていた。
遠くに見えるタンカーを、ボーっと見る。
青い空と海の境に、薄茶けた船が小さく見えた。
そばを歩いて来た、猫のエルマーをひょいっと抱き上げる。
そのときエルマーは、イヤそうに「ニャー」と鳴いた。
週末を、君と一緒に過ごすようになってから。
もう、3年の月日が経とうとしていた。
最近は、今日のようにぼくのマンションに居ることが多かったけれど。
いつの間にか30歳を過ぎた君は。
きっと、そろそろぼくとの結婚を考えている。
ぼくは最近、君のそんな気持ちに気づいていた。
でも。
ぼくとしては、まだ結婚なんて考えられない。
現実問題として、結婚してる自分の姿が想像出来なかったんだ。
それに、ぼくは……。