その3



ぼくの名前は「コージ」だ。



宮原康司。


それが、ぼくの本当の名前だ。



ユージというのは、ぼくの兄貴の名前だ。


ぼくの、双子の兄貴の……。



1年前に、両親が離婚した。



そしてユージは、オヤジと一緒にロンドンに行ってしまった。


ぼくは、お袋を独りにする訳にもいかないし、東京に残ることにしたんだ。



あの頃のことは、思い出したくもない。



ユージは、たぶんもう日本には戻って来ないかもしれない。


いや、きっと戻っては来ないだろう……。



それほどまでに、ぼくの家族はバラバラになってしまったんだ。


それまでの幸せな生活すべてが幻であったかのように……。



「……お帰り、ユージ!」



チカのそんな言葉を聞いたとき、ぼくは一瞬にして理解していた。


きっとユージは、あの日チカと逢う約束をしていたんだろうって。



ユージは、チカを捨てたんだ。



だから、あまりにも嬉しそうなチカを目の前にしたぼくは、チカにこう言ってしまったんだ。



「ただいま!」って、微笑みながら。



「チカね、ユージのことずっと待ってたんだよ!」



チカっていうんだ……。


ぼくは目の前にいる女の子の名前を、その時初めて知った。



そして、チカとぼくの不思議な関係は始まった。



チカは、ぼくを「ユージ」だと信じて疑わなかった。



まぁ、いいか別に……。


ちゃんと説明するのも面倒だし、な……。



ぼくは、そんな軽い気持ちでチカとの時間を過ごし始めたんだ。