☆去年書いたクリスマスのストーリーをアップします。


恋愛小節2006・冬 『あなたを待ち続けて~Fire X'mas!』 和泉 ヒロト


プロローグ


あなたが、あたしの前から消えたのは。

去年の、12月26日。

つまり、クリスマスの翌日のことだった。


五反田駅から、ほんのちょっとだけ歩いた場所にある。

普通の路地に突然に姿を現す、そのオシャレなレストランで。

あたしとあなたは、去年のクリスマスイブの夜を一緒に過ごした。


『ファイヤーママ』という、そのお店は。

「大仁田厚さんのお母さんがやってるんだよ!」って。

あなたが昔、教えてくれたんだっけ……。


「赤ワインを飲むと、さ。舌が真っ赤になるだろ?まるでこの店の名前みたいに。そう、炎みたいにさ……」

なんて。

あなたは、そんなことを言いながら、真っ赤になった舌をペロっと出して見せた。


炎、か……。

あのころ、確かにあたしの恋の炎は燃え上がっていたんだ。


あたしは右手の人差し指で、やっと肩まで伸びた髪をくるくるっと遊ぶ。

あれから、もう一年が経つんだね……。


短く切った、あたしの髪も。

いつの間にか肩まで伸びちゃった、な……。


そんなことを、考えながら。

あたしは、あの夜と同じように。

赤ワインとイベリコ豚のロースをオーダーする。


それは、あなたが好きなメニューだった。


幸せだった、あのころ。

あなたと一緒に食べた、この組み合わせは。

あたしのラッキーメニューだった。


あたしは、髪をいじりながら。

壁と同じ、クリーム色をベースにしたお店の中を、ゆっくりと見渡した。


豊富に配置された観葉植物たちが、目に優しい。


そんな、落ち着いた雰囲気が。

不安なあたしの心を、少しだけ癒やしてくれた。


あなたは、本当に来るのだろうか?

あたしは不確かな約束を信じて、またこのお店にやって来た。


もし、本当にあなたが来てくれたのなら。

今度は絶対にあなたを離さない、って。

そのとき、あたしはそう決めていた。



1.

クリスマスが過ぎた街は、一気にせわしない年末の雰囲気に変わる。


クリスマス・イヴの夜を過ごしたファイヤーママ。


おいしい食事と、おいしいワインを取りながら。

幸せな気持ちで、大好きなあなたと。

あたしは、大切な夜を過ごした。


そして。

あたしのお部屋に、あなたはやってきた。


ゆっくりとしたキスを交わしたその後で。


あたしとあなたは、言い争いをした。


あたしには、分からなかった。

なんであなたは、そんなにも怒るのだろう?


あたしは、ただ。

あなたと一緒に居たかっただけなのに。


あなたは、突然仕事を辞めて。

そして、遠い場所にひとりで行くとあたしに告げた。


あたしは、あなたと一緒に行きたい、と言った。

でも、あなたは。

それを、許してはくれなかった。


そして。

あなたは、あたしの前から姿を消した。

どこに行くのかも告げずに。


あなたから届いた、最後のケータイメール。

そこには、

「もしも、俺のことをまだ好きでいてくれたなら、来年の12月23日夜8時にファイヤー
ママで逢おう」って。

それだけが書いてあった。


どうしてあなたは、消えてしまったのだろう?

あたしをひとり、東京に残して。


あなたからの連絡は、それ以来ぷっつりと途絶えた。


あたしの恋の炎は今、確かに消えかかっていた。


あなたと過ごした一年。

あなたがいない一年。


あたしにとっては、違いすぎる一年という時間。


あなたは。

きっと、あたしが必要じゃなくなったんだって。

しばらくの間、そんな風にあたしは思っていた。


そして、あたしは。

腰まであった長い髪を、バッサリと短く切った。


あたしは、それでも。

あなたのことを信じて待とうと、だんだんと思えるようになった。


幸せすぎた時間が、そうさせてくれたのかな?

ううん。

それは、きっと違う。


だって。

あたしは、あなたの本当の気持ちに、気づくことが出来たんだから。


2.

あなたと初めて出逢ったのは。

2年前の、ある夏の日のことだった。


蒸し暑い、五反田駅のホーム。


徹夜で仕事をしたあたしは。

気分が悪くなって、ホームのベンチに座り込んだ。


そのころ。

仕事にも、人生にも行き詰まっていたあたしは。

こんな風になっていても。

誰にも構って欲しくない、なんて。

すごく後ろ向きな気持ちでいた。


ぐるんぐるんと、景色が回った。

あたしは、頭を抱えて目を閉じる。


そのとき。

「大丈夫?顔、真っ青だよ。駅員さん、呼ぼうか?」

そんな風に、優しく声を掛けてくれたあなたに。


「いいえ、大丈夫ですから。ほっておいてください!」って。

あたしは、そんな失礼なことを言ってしまった。


それでも、あなたは。

ニッコリと笑って、あたしにこう言ってくれた。

「ムリしなくても、大丈夫!だって明日は、きっと良い日だから、さ……。じゃぁ、気をつけて!」って。


そんな、あなたの爽やかな笑顔に。

あたしの胸は、そのときドキっとした。


電車に乗って、行ってしまったあなたに。

「ありがとう!」って、言えなかったことを。

あたしは、ものすごく後悔していた。


もしも、またあなたに逢えたら。

必ずあなたに、お礼を言うんだって。

あたしは、そのとき決心した。


あなたに、再び逢えたのは。

奇跡的に、ほんの3日後のことだった。


五反田駅のホームで。

あたしは、人ごみの中にあなたを見つけた。


えっ、行っちゃう!?

あたしはあなたに走り寄って、あなたのジャケットの裾を無理やり捕まえた。


一瞬、ビックリした顔をしたあなたは。

あたしを見て。

「やぁ、今日はいい日かい?」って。

また、ニッコリと笑ってくれた。


あたしは、そんなあなたのことを。

そのとき、もう大好きになってしまっていた。


そして。

あたしたちの幸せな時間は、そのとき始まったの。



3.

あたしは、ファイヤーママのテーブルに座って。

あなたを、待ち続ける。


右手に巻いたグッチの時計を見る。

約束の8時まで、あと15分。


時間に正確な、あなたのことだから。

きっと今日も、時間ぴったりに現れるに違いない。


でも。

やはり、あたしは不安だった。


だけど、あたしは。

あなたのことを、信じようと思った。


あのとき。

あなたはきっと、あたしの仕事のことを考えてくれたんだ、って。

あたしは、分かっていたから。


だから、あたしを。

あなたは、連れて行かなかったんだ、って。


でも、ね。

あたし、分かったの。

あたしの夢は、仕事だけじゃないんだ、って。

あなたがいないと、やっぱりダメなんだ、って。

この一年、あたしはそのことをイヤになるほど感じていたから。


今度は何があっても、あなたとは離れない、って。

あたしは決心していた。


時計の針が、8時を過ぎる。


5分過ぎても、10分過ぎても。

あなたは、現れなかった。


やっぱり。

あなたは、来ないつもりなんだ……。


あたしは、グラスの赤ワインを飲み干して。

ゆっくりと、ひとつため息をついた。


これで良かったんだ。

ううん。

これで良かったと思わなきゃ。


ひと粒の涙が、あたしの頬を伝って落ちた。


そのとき。

ファイヤーママの入り口に立つあなたの姿を。

あたしは、見つけた。


来たっ!?


ハァハァと、息を切らせたあなたが。

私のテーブルまで、ゆっくりと近づいてくる。


「遅れて、ゴメン。……今日は良い日?」

そう言いながら、ニッコリと微笑むあなたに。


あたしは、思いっきりアッカンベーをした。


「真っ赤な舌だな。まるで炎みたいだ!」と、あなたが笑う。

釣られて、あたしも笑った。


あなたは、イベリコ豚のロースをつまみながら。

赤ワインを、おいしそうに飲む。


そして。

あなたはあたしに、この一年の話を聞かせてくれた。


降り始めた雪が、五反田の街を白く染めていく。


クリスマスイブの、今日からまた。

あたしの恋の炎も、また燃え上がる。


そして。

きっと、これから本物の。

あたしとあなたの幸せな時間が、始まるんだ……。


メリークリスマス!



恋愛小節2006『あなたを待ち続けて~Fire X'mas!』

by Hiroto Izumi 2006