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それから、ぼくの体は

順調に回復して行った。


たまに頭痛が起きるが、それもだんだんと無くなって行った。


約3週間の入院生活の後に

ぼくは、病院を退院した。


そしてぼくは、藤香のことを

いつの間にか、記憶の彼方に追いやっていた。


16歳の春に、藤香と離れて以来。

ぼくは、藤香に逢っていない。


ぼくは、それからずっと

そんな風に思い込んでいたのだ。


それは、きっと

受け入れ難い記憶を、消すための

いわゆる、防衛本能だったのかもしれない。


それほどまでに、ぼくは

藤香を深く愛していたのだ。




全ての記憶を取り戻した、ぼくは

台所の床に座り込んでいた。


そして、考えを巡らせる。


藤香から、手紙とメールが届いた……。

そして葵は、藤香に逢ったと言う。


藤香は、死んでなかったというのか?


「葵、教えてくれ! 藤香は、いまどこに居るんだ!」

ぼくは、すぐそばにいた葵にそう詰め寄る。


「藤香ちゃんは、ずっと病院にいたよ……あれから、ずっと……」

葵は、苦しげに言葉を続ける。

「お兄ちゃんが事故を起こしたとき、藤香ちゃんは危ない状態だった。でも、奇跡的に持ち直したの。それからは、専門の病院に移ってずっと治療を続けて来た……」

「どうして俺に教えてくれなかったんだ? どうして……」

「それは……藤香ちゃんが、それを望んだから……。ごめんね、お兄ちゃん。でもそれは、お兄ちゃんのことが心配だったからだよ……」