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ギリギリで車は避けられた。
しかし、左手には
もう全く力が入らなかった。
前輪がロックしたのは、覚えている。
そして後輪には、ほとんどブレーキがかかっていなかった。
ぼくは、前のめりになる車体を
体重をさらに後ろにかけて押さえ込もうとした。
しかし既に、限界は越えていた。
背中から前方に飛ばされた、ぼくは
そのまま、空を飛んだ。
ほんの短い時間のはずなのに
逆さまに見える景色が
スローモーションのように流れていく。
藤香……
待っててくれ!
すぐに、藤香のそばに行くから。
すぐに……
地面が目の前に迫っていた。
ぼくは、ゆっくりと目を閉じる。
暗闇の中に、眩しい緑色の光を感じていた。
頭の中に蘇っていたのは
あの写真の景色だ。
キラキラ輝く、薄緑色の水面。
青草と、ケヤキの葉の緑色……。
ぼくのそばに立つ藤香が
恥ずかしそうに、ぼくを見つめていた。