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ぼくは、その頃

尚子(しょうこ)という女と、一緒に暮らしていた。


尚子は、大学の後輩で

1年近くも一緒に住んでいた。


ぼくは、そんな尚子を間違いなく愛していたのだ。


藤香と再会した、ぼくは

尚子に別れを切り出した。


それは、ただ

藤香だけを愛するために出した結論だった。


尚子が嫌いになったわけではない。


しかし、ぼくは

藤香のことだけを考えたかったのだと思う。


突然、訳も言わず告げられた別れに

尚子は、激昂した。


「どうしてなの? 訳を言いなさいよ! 絶対に許さないから……」


ぼくは、ただ無言で

尚子に、頭を下げ続けるしかなかった。


尚子に別れを告げた、次の日のことだ。


藤香の病院から帰って来ると

ぼくの部屋の中は、ムチャクチャに荒らされていた。


尚子、か……。


ぼくは、どうしようもなく情けない気持ちを抑えながら

部屋の中を片付け始めた。


尚子の荷物は、すっかり運び出されていた。


そして、ぼくは

ステンレスのシンクの中に、それを見つけたのだ。