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6人部屋の病室を出て

ぼくと藤香は、病院内の小さな公園へとゆっくり向かった。


病院の長い廊下を歩きながら

ぼくは、あの頃のように

無言で、藤香に手を差し出した。


藤香は、あの頃と同じように

少しハニカミながら、ぼくの手を握った。


少し息苦しそうに、ゆっくりと歩く藤香に

ぼくの心は痛んだ。


そして、ぼくたちは

雨上がりの公園の、小さな屋根の下にあるベンチに腰掛けた。


「藤香……逢えて嬉しいよ……」


ぼくは、藤香の左手を握ったまま

藤香の瞳を見つめた。


「うん、藤香も……まさかお兄ちゃんに逢えるなんて、思ってもみなかった……」

藤香は、そう言いながらニッコリと笑った。


「……俺さ……これから毎日、藤香に逢いに来るよ。良い?」

「うん! 嬉しいけど……無理しないでね! お兄ちゃんも、ケガしてるんだし……」

「ううん、大丈夫。 今、ヒマだし。っていうか、逢いたいから来るんだ。気にしないで」


藤香は、ぼくの目をじっと見つめていた。

ぼくは、まっすぐに藤香の大きな瞳を見つめ返す。


「ごめんね、お兄ちゃん……藤香、こんなカラダに、なっちゃった……」

「バカだな……治せばいいじゃん! 俺が付いててやるから、大丈夫だよ!」

「そうだね! ありがとう! お兄ちゃん!」


藤香の少し寂しそうな笑顔を見ながら

ぼくは、気付いたんだ。


ぼくは、ずっと

藤香を愛していた、ということに。