29


「……治らないんですか? ……何か治療法は?」

「病気が分かってから、5年後の生存率は……ほとんど0なのよ……」


ポロポロと、また涙を流し始めた沙也香さんを見て

ぼくは、この事実が

夢ではないと、悟った。


「……藤香は、自分の病気のことを知ってるんですか?」


沙也香さんは、何も言わずに

ゆっくりと、ただ頷いた。


藤香が検査を終えて、病室に戻って来るまで

その、約一時間の間。


ぼくは、呆然としながらも

藤香に、どう接すれば良いのかを考えていた。


あの頃の、藤香との思い出が

今は、ぼくの胸を締め付けていた。



少し息苦しそうに、病室に戻って来た藤香の顔を見たとき

ぼくは、心の苦しさを押し隠しながら

藤香に、ニッコリと笑いかけた。


「やっぱり、居てくれたね、お兄ちゃん!」


藤香は、そう言いながら

本当に嬉しそうに、ニッコリと笑った。


ぼくは、藤香のそばまで歩いて

そして、藤香の耳元でこう囁いた。


「藤香……大丈夫だったら、少しふたりで歩かないか?」


藤香は、ぼくの目をじっと見つめて

そして、微笑みながら

ゆっくりと、頷いた。