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「あの、沙也香さん…………藤香は、どこが悪いんですか?」
ぼくは、いま一番気になっていたそのことを訊いた。
「葵ちゃんからは、何も聞いてないのね……」
「えぇ、何も……悪い病気なんですか?」
沙也香さんは、ひとつ大きくため息をついて
ぼくの目を、じっと見つめた。
「病気が分かったのは、1年半前のことだった……藤香が急に倒れて……」
そのとき
沙也香さんは、大きな瞳から
ポロポロと涙を流し始めた。
「ゴメンなさい、私がこんなことじゃダメなのに……」
「……藤香は、そんなに悪いんですか? あの……本当のことを教えて貰えませんか?」
少しの時間を置いて
沙也香さんが、ゆっくりと口を開いた。
「……藤香は、もしかしたら……もう、ダメかもしれない……」
沙也香さんの言葉に
ぼくは、目の前が真っ白になったような気がした。
「原発性肺高血圧症、って知ってる?」
ぼくは、沙也香さんが口にした、聞き慣れない病名に
ただ、頭を左右に振ることしか出来なかった。
沙也香さんは、ぼくの目を見ながら
ゆっくりと言葉を続けた。
「原因不明の難病で……肺から心臓に入る血管がおかしくなって……心臓がダメになってしまう病気……心不全を起こしてしまうの……」
沙也香さんは気丈に、そうぼくに告げた。
ぼくは、そのとき
今まで無いほどの、激しい心の痛みを感じていた。
そして、こんな酷い現実をぼくは
なぜか、まるで夢の中の話みたいに感じていた。