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思い出したくない記憶が

少しずつ、鮮明に蘇って行く。


ぼくと藤香は

あのとき、確かに愛し合っていた。


大学を卒業する春に

ぼくは、間違いなく藤香と再会していたのだ。



あれは、ある雨の日のことだった。


両手に荷物を抱えたまま

ぼくは、アパートの階段を上ろうとしていた。


鉄製の階段に、ゴムのソールは相性が悪い。


ぼくは、ふとした瞬間に

雨に濡れた階段で左足を滑らせてしまった。


荷物を右手で抱えたまま、なんとか体を支えようとして

左手を強く地面に打ち付けたのだ。


「あーぁ、やっちゃったかもな……」

ぼくは、左手の痺れに骨折を覚悟した。


あまりにも、痛みは酷い。

仕方ないので、ぼくは

近くの大学病院までやって来た。



診察の結果は、幸いにも骨には異常がなくて

ぼくの左手には、冷たい湿布と分厚い包帯が巻かれた。


まぁ、大したことなくて良かったな……。


そんなことを考えながら

病院の入口を出ようとした、そのとき

ぼくは急に、後ろから誰かに抱きつかれた。