26
思い出したくない記憶が
少しずつ、鮮明に蘇って行く。
ぼくと藤香は
あのとき、確かに愛し合っていた。
大学を卒業する春に
ぼくは、間違いなく藤香と再会していたのだ。
あれは、ある雨の日のことだった。
両手に荷物を抱えたまま
ぼくは、アパートの階段を上ろうとしていた。
鉄製の階段に、ゴムのソールは相性が悪い。
ぼくは、ふとした瞬間に
雨に濡れた階段で左足を滑らせてしまった。
荷物を右手で抱えたまま、なんとか体を支えようとして
左手を強く地面に打ち付けたのだ。
「あーぁ、やっちゃったかもな……」
ぼくは、左手の痺れに骨折を覚悟した。
あまりにも、痛みは酷い。
仕方ないので、ぼくは
近くの大学病院までやって来た。
診察の結果は、幸いにも骨には異常がなくて
ぼくの左手には、冷たい湿布と分厚い包帯が巻かれた。
まぁ、大したことなくて良かったな……。
そんなことを考えながら
病院の入口を出ようとした、そのとき
ぼくは急に、後ろから誰かに抱きつかれた。