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亜紀の作った冷製パスタを食べながら
ぼくは、さっき届いた藤香の手紙が
気になって仕方なかった。
藤香から手紙が届くなんて
本当に久し振りだ。
藤香が、ぼくの家からいなくなったのは
藤香が初めて現れた日と同じような
ある、爽やかな春の日のことだった。
その日、学校から帰ったぼくは
藤香と藤香のお母さんが、家を出たことを聞かされた。
東京に行ったって?
なぜ、そんな急に……。
ぼくは、あまりにも突然のことに
当分の間、落ち込みまくっていたっけ……。
藤香と暮らしたあの一年は
11年経った今でも忘れられないほど
ぼくにとって、間違いなく大切な時間だったんだ……。
「……ねぇ、ひろ聞いてる? 今日は、もう帰るね! 原稿書かなきゃ、だし」
亜紀は、食器の洗い物をしながら
そう言って、ぼくの目を
少少し寂しそうに、じっと見つめた。
それから、15分後。
亜紀は玄関で、ぼくの頬にチュッとキスをして
「じゃあ、またね! バイバイ!」と、言いながら
バタバタと自分の部屋へと帰って行く。
忙しいなら、来なくても良いのにな……。
そんな言葉を、心の中だけで呟きながら
ぼくは、玄関でニッコリと笑いながら亜紀を見送る。
部屋の壁に掛けた、マルマン電波時計の針は
午後11時15分を指していた。
亜紀には、本当に感謝している。
だけど最近、ちょっとだけ
亜紀と一緒に居るのが、辛いときがある。
亜紀は、決して自分からは
「結婚」という言葉を口にしない。
だけど、きっと
亜紀は、ぼくと結婚したいと考えていると思う。
だけど、ぼくは……。