38 『ぼくの、心のフィルターに残したもの』

梅雨は、どこに行ってしまったのだろう?


連日まるで、真夏のような日差しで。

気温も連日、真夏並みだった。


暑い……。


噴き出す汗を、ハンカチで拭いながら。

ぼくは、恵比寿の街を歩く。


用事を済ませて、駅に向かう途中。

ふと目にした、その店は。

以前、彼女と良く行った店だった。


あぁ、懐かしいな……。


あれから、何年も経ったのに。

ぼくは、まだ。

彼女のことを、思い出してしまうんだ。


アイスコーヒーでも、飲むかな……。


暑いし……。


そんな言い訳をしながら、その店に入ったぼくは。

偶然。

昔、彼女と良く座った席に案内される。


ぼくは、苦笑いしながら。

グラスの水を、ひと口ゆっくりと飲んだ。


アイスコーヒーを飲みながら。

ぼくは、つい彼女の面影を追う。


ぼくの、目の前に座った彼女が。

コロコロと笑いながら。

じっと、ぼくの目を見つめていたっけ……。


何やってんだよ、全く……。


ぼくは、また苦笑いしながら。

窓の外に見える人通りを、ぼーっと見つめた。


消せない思い出は、きっと誰にでもある。

それは、良い思い出だったり。

悪い思い出だったり。


だけど。

それを、しっかりと心のフィルターに通して。

せめて、良い思い出だけを残すくらいにしなければ。


きっと、次の幸せはつかめないんだよな……。


ぼくは、ポケットからケータイを取り出して。

君へのメールを打ち始める。


ぼくには、もう確かな新しい幸せがある。


いま、一番大切な君へ。

メールを書き始めた、ぼくは。

確実に、いま。

君だけを想うことが出来るんだから……。


『ぼくの、心のフィルターに残したもの』