35 『朝は、必ずやって来る』

夏になる一歩手前の風は。

サラサラと、ぼくのカラダをすり抜けて。

心地良い爽やかさを残して行く。


ミニチュアダックスのノエルを連れて。

ぼくは、のんびりと運河の土手を歩く。


夕陽がオレンジ色に輝いて。

長い光の帯を、水面にキラキラと映し出していた。


あのとき。

彼女が最後に、ぼくに告げた言葉は。

ぼくの心を痛めつけて。

ぼくの目に映る全てのものから。

鮮やかな色を失わせてしまった。


だけど、ぼくは今。

色鮮やかな夕陽や、木々の緑の色を。

しっかりと、この目に感じている。



いつの間にか、陽は落ちて。

群青色の薄い闇が、全てを覆い始めていた。


でも、ぼくの目には。

明日の朝の光が映し出す。

色鮮やかな世界を、しっかりと想像することが出来る。


君が、ぼくに勇気をくれた。


明けない夜はないって、良く言うけど。

ぼくは、それを確かに実感している。


「帰ろうか、ノエル……」


君の待つ、ぼくの部屋へと。

ぼくは、歩を速める。


また、朝はやって来たんだ。

そんな幸せを感じながら。

ぼくは、すっかり暮れた空を。

ゆっくりと、見上げた。

『朝は、必ずやって来る』