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函館山からの夜景は、とても美しかった。

左右から中央に細くなるように。

入江がカーブを描く。

今は、電気の灯りが入江の形を描いていた。


右手には、イカ釣り漁船が眩い白い光を輝かせていた。

なるほど、スペースシャトルからも見えるほどの明るさだ。


俺は、沙樹子の肩を抱きながら。

耳元で囁く。

「寒くない?大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ……」


俺たちは、眼下に広がる夜景に目を奪われていた。

あの灯り、ひとつひとつに。

それぞれの生活や人生があるのだ。


この夜景を、沙樹子と見ることが出来て良かった……。

俺は、そう思った。


「キレイだね……」

そう呟く沙樹子を、後ろからギュッと抱き締めながら。

俺は、そのとき。

とても幸せだった。


この幸せだけは、失いたくない。

俺は、そのとき。

本気でそう思っていた。


ホテルに帰る途中で、食事をした。

イカの刺身やホタテのバター焼きは。

当然、新鮮で旨い。

意外に旨かったのは、焼いた石の上で。

焼きながら食べる、イカの塩辛だった。

「美味しいね、これ!」

沙樹子は、日本酒をやりながら。

楽しそうに、笑った。