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そして、俺たちは。

そのまま、畳の上で愛し合う。


もう、沙樹子を離さない。

沙樹子を抱きながら、俺は。

もう一度、そんな決意をしていた。


そのときは、確かに……。


その日俺たちは、五稜郭へと出掛けた。

ホテルから、少し歩いたところに。

路面電車の電停(駅)があった。


古い路面電車に乗り込むと。

床の木に塗られた、ワックスのニオイがした。


あぁ、懐かしいな……。

俺は、生まれ育った広島の路面電車のことを思い出す。

そして、広島でのいろいろな出来事も……。


ニオイは、思い出を思い起こさせるスイッチだよな……。

俺は、そんなことを一瞬考えていた。


路面電車を下りた、俺たちは。

手を繋いで、のんびりと歩く。


さすがに、少し寒い。

でも、沙樹子と一緒にいれば。

その寒さも、和らぐ気がした。


砂利道を歩いて、木製の橋を渡る。

橋の下の、お堀には。

色鮮やかな、鯉が泳いでいた。


五稜郭の中を、のんびりと歩きながら。

俺は、考えていた。


沙樹子は、もう一度。

俺を愛してくれるのだろうか、と。


いや、愛してくれるというか。

俺を受け入れてくれるか?と、いうことだ。