75

沙樹子は、何も悪くなかった。


そのことを思うと、俺は。

今でも、胸が痛んだ。


だからこそ、俺は。

沙樹子のことを、意識して記憶から消そうとした。

しかし……。


俺は、もう一度時計を見上げる。

針は、午後10時15分を指していた。


俺は、テーブルの上に置いた電話から。

ゆっくりと、受話器を取り上げる。

そして、沙樹子の番号をプッシュした。


呼び出し音を聞きながら。

俺は、ボーっと考えていた。


沙樹子は、もう28歳になっている。

もしかして、もう。

結婚して、家を出ているのかもしれない……。


いや、それよりも。

一体、今さら俺は。

沙樹子に何を話すというのか?


7年前のクリスマスに。

俺と沙樹子は別れた。


そして、それから一度だって。

俺は、沙樹子と連絡を取っていない。


やはり、電話なんてするべきじゃない……。


そう思った、俺は。

受話器を電話に戻す。


そのとき。

電話が繋がった。


「はい、大下です……」

沙樹子!?

その声は、間違いなく沙樹子だった。


俺は、意を決した。

ひとつ息をついて。

俺は、ゆっくりと口を開いた。