74

時計の針は、午後10時11分を差していた。

俺は、手帳をパラパラめくって。

最後にある、住所録を見る。


あった……。

そこには、沙樹子の自宅電話番号が書いてあった。


本当は、俺は。

まだ、沙樹子の電話番号なんて。

なんとなくたけど、ちゃんと覚えていた。

でも、さすがに自信がなかったのだ。


7年という時間は。

そんな小さな自信をも、奪い取ってしまう。

それほどに、7年という時間は長いのだ。


俺は、そのとき葛藤していた。

沙樹子の声が聞きたい……。


俺は、まだ。

はっきりと、沙樹子の声を覚えていた。


俺は、沙樹子の声が好きだった。

可愛いが、ちゃんと芯の通った声。

それは、沙樹子の性格も表すように。

きっちりと、正確に言葉を伝える。


甘えるときだって、沙樹子は。

決して、フニャフニャの声にはならなかったよな……。


そんなことを、思い出しながら。

自然と俺は、ニヤついていた。


……おいおい!

何やってんだよ、俺は……。


ずっと忘れていた、沙樹子のことを。

俺は、急に意識し始めていた。


いや、本当は。

俺は、沙樹子のことを。

ただ、ずっと忘れようとしていただけなのだ。