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その夜、自分の部屋に帰った俺は。

引き出しから引っ張り出した、古い手帳をボーっと眺めていた。


1990年の手帳……。

その手帳は、開いた2ページがひと月分で。

1日が、ひとつの真四角のマスになっていた。


俺の汚い字で、そのマスに。

いろいろな予定が、書き込まれていた。


手帳をめくって、4月のところを見る。


看護婦合コン、20時渋谷。


と、書き込んである。

それが、沙樹子との出逢いだった。


あの日、俺は。


合コンのあと、二次会には行かずに。

そのまま、渋谷駅に向かった。


そのとき、偶然。

駅まで一緒に歩くことになったのが、沙樹子だった。


俺の胸に、苦い想いが広がる。

あのとき、一緒に帰らなけば。

沙樹子と付き合うことは、なかっただろう。


あのとき、なぜか俺は。

沙樹子の電話番号を聞いて。

そして、次の日曜に横浜でデートしたっけ……。


手帳には、次の日曜のマスに。


13時渋谷~横浜P

と書いてある。

Pとは、ポルシェで、という意味だ。


1990年は、本当にいろいろなことがあった。

あれから7年経っても。

あの頃の思い出は、なぜか鮮明だった。

俺は、部屋の壁に掛けた。

買ったばかりの、マルマン電波時計を見た。