66

愛美は、いま。

自分の夢に向かって、やっと進み始めたばかりだ。


愛美の気持ちを確認しなくても。

俺には、分かっていた。


すぐに結婚したり、子供を産んだりという。

そんな選択を、愛美がするはずがない。


いつの間にか、俺は。

32歳に、なっていた。


俺は、間違いなく愛美を愛していた。

でも……。


もう、悠長に。

同じ失敗を繰り返す訳には、いかないのだ。


昔のように、俺は。

なんとかなる、という風に。

ただ、希望的観測を信じることが出来るほど。

もう、若くはない。


愛美を抱き締めながら。

俺は、そんなことを考えていた。


次の朝、8時。

俺と愛美は、一緒に部屋を出た。


京急から山手線に乗り換えて。

愛美は、東京駅に向かう。


会社に向かうため。

新橋駅で、俺は電車を下りる。


電車のドアが閉まる。

俺は、ホームから愛美を見送る。


愛美は、俺の目をじっと見つめていた。

電車が動き出す、その瞬間。

愛美の唇が動いた。

あ い し て る。

あ り が と う。

さ よ う な ら、ひ ろ……。

愛美の大きな瞳から、涙がこぼれ落ちる。


えっ?

俺は、呆然とホームに立ち尽くしていた。