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押し入れの奥から取り出した、黒いバッグを持って。


俺は、すっかり暗くなった路地を歩く。


新宿と言っても、このあたりは。


下町っぽい、古い町だ。



靖国通りに向かって、坂を降りたところに。


麻里恵が立っていた。



麻里恵……。



麻里恵の姿が、小さく見えた。


俺は、胸が苦しくなる。



「ありがとう。ごめんなさい……」


そう言いながら、麻里恵は。


突然、涙を流し始めた。



えっ?



俺は、麻里恵が泣いているという事実に。


正直、混乱していた。



麻里恵は、俺に一礼して。


その場から、逃げ出すように駆け出した。



俺は。


麻里恵を、もう追うことはしなかった。



きびすを返して、俺は。


トボトボと、歩き始める。



麻里恵は、やっぱり。


俺のことを嫌いになった訳じゃなかったんだ……。



俺は、麻里恵の気持ちを想うと。


ますます、複雑な気持ちだった。



麻里恵が、まだそんな風に俺を想っていたとしても。


結局、俺からは離れて行ってしまうのだ。



それでも、俺は。


やはり、まだ麻里恵のことを愛していた。


でも、もう。


麻里恵を愛しても、意味が無い……。



俺は、空に浮かぶ赤い月を見ながら。


そのとき、強烈な寂しさを感じていた。