29
押し入れの奥から取り出した、黒いバッグを持って。
俺は、すっかり暗くなった路地を歩く。
新宿と言っても、このあたりは。
下町っぽい、古い町だ。
靖国通りに向かって、坂を降りたところに。
麻里恵が立っていた。
麻里恵……。
麻里恵の姿が、小さく見えた。
俺は、胸が苦しくなる。
「ありがとう。ごめんなさい……」
そう言いながら、麻里恵は。
突然、涙を流し始めた。
えっ?
俺は、麻里恵が泣いているという事実に。
正直、混乱していた。
麻里恵は、俺に一礼して。
その場から、逃げ出すように駆け出した。
俺は。
麻里恵を、もう追うことはしなかった。
きびすを返して、俺は。
トボトボと、歩き始める。
麻里恵は、やっぱり。
俺のことを嫌いになった訳じゃなかったんだ……。
俺は、麻里恵の気持ちを想うと。
ますます、複雑な気持ちだった。
麻里恵が、まだそんな風に俺を想っていたとしても。
結局、俺からは離れて行ってしまうのだ。
それでも、俺は。
やはり、まだ麻里恵のことを愛していた。
でも、もう。
麻里恵を愛しても、意味が無い……。
俺は、空に浮かぶ赤い月を見ながら。
そのとき、強烈な寂しさを感じていた。