25


次の夜、遅く。


麻里恵が、やっと家に帰って来た。



「……お帰り、マーチャン!」


俺は、普段と変わらない態度に見えるように。


微笑みながら、麻里恵に声を掛けた。



「…………」



麻里恵の態度は、俺が広島に行く前と180°変わっていた。



「……わたし、荷物を取りに来ただけだから」と、麻里恵は。


俺の目も見ないで、冷たくそんな風に言った。



何、言ってんだよ……。


俺は、そう呟きながら。


麻里恵の腕を掴んだ。



「やめて!離してよ!」


俺は、嫌がる麻里恵をギュッと抱き締めた。



一瞬、動きが止まった麻里恵は。


そのあと、俺の肩を押し戻しながら。


「もう無理だよ、わたしたち……」と、呟いた。



麻里恵の頬を、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。



「とりあえず、話をしよう。なっ!」


俺は、努めて冷静に麻里恵に向き合う。



「ごめん。もう、話すことなんかない……」


そう言って、麻里恵は。


俺の目を、じっと見つめた。



黒い大きなバッグに、荷物を詰め始めた麻里恵を。


俺は、止めようとして。


そして、それを思い留まった。



家を飛び出して行く麻里恵に、何も言えないまま。


俺は、玄関で呆然と立ち尽くしていた。