『恋愛小節1990~Girl's Side』
第3章 陽子の場合
その2
あなたとあたしは、あなたのポルシェに乗り込んで、深夜の街を走った。
すごい車……。
かっこいい。
カーコンポからは、ヒップホップのダンスナンバーが、ノンストップで流れていた。
「ねぇ、これって、ひろさんがつないだの?」
あたしは、軽くリズムを取りながら、あなたに聞いた。
「あぁ……」
そう言って、微笑んだあなたの横顔が、とてもステキに見えた。
時計を見ると、もう午前3時を過ぎていた。
環七にあるロイヤルホストは、平日のこんな時間でも、けっこう込んでいた。
あたしは、サラダとオニオングラタンスープをオーダーした。
こんな時間に食べたら、太っちゃうな。
まぁ、今日はいいか。
うん。
オニグラ、最高!
あたし、ハフハフしながらスープを食べる。
おいしい!
あなたは、そんなあたしをやさしく見ていた。
そして。
あなたは、こう言った。
「ねぇ、陽子って血液型、何型?」って。
「内緒。うふふ。何型だと思う?」
あたしは、あなたにちょっと意地悪したくなっていた。
「でもさ。俺思うんだけど、たった4つのパターンに分類するのって無理あると思うんだよね」
あなたは、そう言ってあたしの目をじっと見つめた。
あたしは、あなたから目をそらして、あなたの指の動きを見ていた。
細くて、かわいい指。
まるで、アイツの指みたい……。
「O型だろ?陽子」
「残念でした!B型だよ~」と、あたしは笑った。
あなたは、がっかりしたような顔をしていた。
やっぱり。
分かりやすい。
「ひろさんA型でしょ?分かりやすいもん」
あたしは、あなたに本当のことを言う気になったの。
「ごめんなさい!ホントはあたし……O型だよ。今までA型の人と縁がなかったんだけど……」
あなたの表情が、パッと輝いたように見えた。
「やっと出逢えたかも……」
そう言ってあたしは、微笑む。
あなたは、優しくあたしの目を見つめていた。
そして、こう言った。
「キミのことをもっと知りたい。俺も……O型の女を捜していたんだ。だから……」
あたしは、自分でもわかるくらいに、顔が火照っていた。
あたし。
もしかしたら。
一歩、踏み出せるかもしれない。
あたしは今、確かにそう感じていた。
だって。
あなたは、アイツとは違う、もっと優しい笑顔を見せてくれる。
あたしは、あなたの目をじっと見つめ返していた。
今日は、午後からバイトがあった。
だから、あなたは気を使って、池袋まで送ってくれた。
「また、逢おう。連絡するね」
あなたは、そう言って笑った。
あたしは、部屋に戻った。
そして、考えていた。
もう、アイツのことなんて、想ってもどうしようもない。
そんなことは、ずっと分かってた。
でも。
最初の一歩が、どうしても踏み出せないでいた。
もしかしたら。
あなたとなら、大丈夫かもしれない。
ううん。
きっと、大丈夫。
あたしは、明るくなってきた部屋のベッドに入って、枕をギュっと抱きしめた。
あたしは、その日午後からデパートでバイトだった。
サンプルのビールを配る、マネキンのお仕事。
ちょっと眠いけど、今日は元気に仕事が出来た。
「どうしたの、陽子。楽しそうじゃん、今日」と、ユカが声をかけてきた。
ユカって、かわいい。
モデルもやってるだけあって、スタイルもいいし。
「うん、まあね」って、あたしは笑った。
「なんかいいことあったんだね。よかった!」と、ユカは喜んでくれた。
アイツのことで、ユカには、いっぱい心配をかけた。
だから、いま。
こんなに素直に笑える自分が、あたしはうれしかった。