『恋愛小節1990~Girl's Side』
第3章 陽子の場合
その1
あたしは……。
あなたの、指が好き。
女の子みたいに柔らかで、細い。
器用に動く指先の動きを見ているだけで、あたしはうれしくなる。
だから。
あたしは、いつもあなたの指先を見ていた。
そんな指で、やさしく触れられたとき。
あなたは知ってたかな?
あたしの胸が、いつもドキドキしていたのを……。
そしてあたしは、あなたの指をずーっと見ていたいって思った。
いつまでも、ずっと。
あなたと初めて出逢ったのは、池袋のクラブでだった。
レゲエがかかるその店に、その夜あたしは、ひとりで行ってみた。
フロアで踊るあたしを、まわりの男たちが見ていた。
でも。
別にいま、あたしは男が欲しいわけじゃない。
ただ。
あたしは、ただ踊りたかった。
だから。
声を掛けてくる男たちを、無視し続けた。
踊りつかれたあたしは、フロアにいる男たちをボーっと見ていた。
あたし、どうしたいんだろう……。
こんな毎日を、ずっとこれからも続けていくのかな……?
そんなことを考えていたとき。
あたしは、あなたの姿を見つけた。
えっ?
アイツ?
あたし、胸がドキッとした。
ううん。
そんなはずない……。
だって、アイツは、もういないんだから……。
でも。
いつの間にか。
あたしは、あなたのそばに立っていた。
そして、アイツに言っていたのと同じように、あなたにこう言った。
「久しぶり!元気だった?」
あたしは、あなたに抱きつきながら、目を閉じた。
フロアには、ベースの効いたレゲエが鳴り響いていた。
あなたは、あたしを引き寄せ耳元でこう言った。
「あぁ、まあね。君はどう?」
あなたは、アイツに良く似ていた。
でも、やはりアイツとは違う。
あたりまえだけど、違う。
あたしはまだ、アイツのことを忘れられないでいた。
でも……。
あたしは、そんな気持ちを振り払うように、フロアに出た。
あなたは、背の高い椅子に座って、あたしを見ていた。
見られるのは、キライじゃない。
でも今は、なぜかドキドキしていた。
あなたのことが、とても気になる。
あたしは、踊りながら、あなたのことをチラチラ見ていた。
そのとき。
あなたは、右手の中指と人差し指を、小さく左右に振った。
あたしも、同じように指を振った。
なんだか、楽しい。
そして。
あなたがフロアに出て、私のそばまで歩いてきた。
そしてあなたは、あたしにこう聞いたの。
「名前教えてくれるかな?」って。
あたしは、そんなに軽い子じゃない。
でも。
アイツに似てるあなたは、特別だと思った。
「よ・う・こ!太陽の陽に子供の子!」
あたしは、あなたに抱きつきながらそう言った。
フロアには、ロマンチックなレゲエが流れていた。
あたしは、あなたと一緒に踊った。
一緒に踊って、あたしは、すぐに気づいた。
あなたとなら、大丈夫かもしれない。
アイツに似ている、あなたとなら……。
あなたとあたしは、フロアを後にして、ボックス席で一緒に過ごした。
「ねぇ、お腹空かない?」と、あたしはあなたに言った。
あなたは、あたしの手を取ってフロアを抜け出した。
「何食いたいの?」と、あなたは聞いた。
「うーん……。ファミレス行きたい!ロイホでオニグラ!」
あたしは、そうあなたに言った。
そのとき。
自然に笑っている、自分に気づいたの。
こんなこと、久しぶりだな……。
あなたは、あたしの腰に優しく手を回して、店から連れ出してくれた。