『恋愛小節1990~Girl's Side』
第2章 栞の場合
その3
お兄ちゃんとあたしは、公園をゆっくりと歩いた。
できることならば。
いつまでも、このつないだ手を離したくない。
でも。
いつの間にか、もうかなり遅い時間になっていたんです。
あたし、帰らなきゃ。
だけど。
本当は、お兄ちゃんともう少し一緒にいたかった。
駅に向かう途中で、あたしお兄ちゃんに言ったんです。
「あのね、あたし先輩のことは、もうあきらめようと思うの」って。
「そっか……」って、お兄ちゃんはうなずいた。
「うん。失恋から立ち直るには、新しい恋をするのが一番だと思うし、好きなひともできたし……」
あたし、そう言いながら、お兄ちゃんの顔をじっと見た。
そのとき。
お兄ちゃんの顔が、少し曇った。
あたし、そのことがすごくうれしかったんです。
新宿駅西口に着いた。
そして。
小田急線の改札に来たとき。
あたし、思いっきりの勇気を出したんです。
「お兄ちゃん、またすぐに逢ってよね。約束だよ。バイバイ!」
そう言ってあたしは、お兄ちゃんの首筋に優しくキスをした。
あたし、自分でも顔が赤くなるのが分かった。
顔が、とっても熱い。
首筋に手を当てて、呆然としているお兄ちゃんに手を振りながら、あたしは小田急線の改札に急いで入った。
電車の中で、あたしまだドキドキしてたんです。
やっちゃった!
でも。
あたし、お兄ちゃんに分かって欲しかったんです。
あたしが、お兄ちゃんのことを大好きだってことを。
そして。
それからは、なかなかお兄ちゃんに逢うことは出来なかった。
あたしは、お兄ちゃんに逢いたかった。
でも。
お兄ちゃんは、お仕事が忙しいみたいで、なかなか逢えなかったんです。
だから。
あたし、ホントはとっても苦手だけど。
お兄ちゃんの留守電に、メッセージを入れた。
「お兄ちゃん、元気?栞です。あのね、今日ね……」
そんな風に、毎日、その日の出来事を話したんです。
お兄ちゃんに逢えなくても。
きっと大丈夫。
だって。
あたし、お兄ちゃんのことが大好きだったから。
でも。
お兄ちゃんは、あたしに一度も電話をかけてきてくれなかったんです。
どうしてなの、お兄ちゃん……。
あたし、ずっと我慢したんだよ。
お兄ちゃんのことが、大好きだから。
ずっと。
先輩も、そうだった。
あたしのことを、ちゃんと見てはくれなかった。
お兄ちゃんもそうなの?
そんなのイヤだよ。
お兄ちゃん……。
でも。
あたし、もうあきらめたほうがいいのかな?
でも。
あたし、悲しいよ。
つらいよ、お兄ちゃん……。
気がつくと、あたし泣きながら眠っていたんです。
夢を見た。
お兄ちゃんが、遠くに行ってしまう夢。
行かないで、お兄ちゃん……。
目が覚めたあたしは、泣きながらお兄ちゃんに電話したんです。
「お兄ちゃん…どうして連絡くれないの?こんなの辛すぎるよ……最後に一度だけ…逢ってください。連絡待っています……」
そんなメッセージを留守電に吹き込んだあたしは、少し後悔していた。
最後に一度だけ、って……。
そんな悲しいことを、ホントは口にしたくなかった。
でも、もうダメかも……。
あたし、クッションを抱えて、ベッドでずっと泣いていたんです。
あたしは、お兄ちゃんからの電話を待っていた。
きっとくるんだ、って信じながら。