『恋愛小節1990~Girl's Side』
第2章 栞の場合
その2
それから。
何回目かの電話で、やっとお兄ちゃんが出てくれたんです。
「あっ、お兄ちゃん!栞です。やっとつながった!」
「あぁ。ごめんね。どうした?」って、お兄ちゃんは言った。
「どうした、って。また逢ってくれるって言ったじゃん」
あたし、お兄ちゃんの声が聞けて、とてもうれしかったんです。
「まぁ、栞は妹みたいなもんだしな。じゃあ、いつ逢おうか?」って、お兄ちゃんは言った。
「じゃあ、今度の水曜日は?夜の8時にどこかで」って、あたしは答えた。
あたしとお兄ちゃんは、次の水曜日に新宿で逢うことを約束したんです。
やったーっ!
あたしは、とっても嬉しかったんです。
またお兄ちゃんと、お話できる!
水曜日が来るのが、とても待ち遠しかった。
その日。
夜8時に、マイシティー前のステージのところで、お兄ちゃんと待ち合わせしたんです。
8時10分、か。
お兄ちゃん、遅いな……。
「ごめんごめん!少し遅れちゃったね」と言いながら、お兄ちゃんはあたしのそばに走ってきたんです。
あたし、自然と笑顔になった。
「ううん。お仕事お疲れさまでした!」
お兄ちゃんの笑顔を見たら、あたしはまた楽しくなった。
お兄ちゃんとあたしは、新宿三丁目に向かって歩いたんです。
えいっ!
あたしは、お兄ちゃんのひじに手を絡ませた。
「おいおい!妹はそんなことしちゃダメなんじゃないの?」って、お兄ちゃんは言った。
あたし、勇気を出してこう言ったんです。
「妹だからいいんだも~ん」って。
それからお兄ちゃんとあたしは、チーズフォンデュを食べたんです。
写真の話や、最近起こった面白かったこと。
あたしは、またお兄ちゃんにいろいろな話をした。
お兄ちゃんは、ニコニコして話を聞いてくれたんです。
あたし、きっとそのときお兄ちゃんのことが好きになりかかっていた。
でも。
まだ、自分の気持ちが整理できていなかったんです。
だから……。
「そうそう!最近ね、友達の間で流行ってることがあるの。プロジェクトCっていうんだけど」と、あたしは言った。
勇気を出して、言った。
「へっ? なんだよそれって?」
お兄ちゃんは、不思議そうな顔をしてあたしの顔を見てる。
あたしは、平気な顔をしようとしたんです。
ニコニコ笑うように心がけて。
「この後、お兄ちゃんに連れて行ってもらいたいところがあるんだ……」
「うん?何?どこ行きたいの?」
「ラブホテル……」
お兄ちゃんは、あっけに取られたような顔をして、あたしのことを見ていた。
あたしって、悪い子。
あたし、お兄ちゃんの反応を見たかったんです。
「……なんでプロジェクトCっていうの?」と、お兄ちゃんが聞いた。
「うーん……。よくわからないけど」ってあたしは答えた。
よしっ!
あたしは真面目な顔をして、こう言ったんです。
「ねぇお兄ちゃん。なんかエッチなこと考えてない?」って。
「ううん。そんなことないよ」
お兄ちゃんは、いつものように落ち着いていた。
そのとき、あたし。
やっぱり、お兄ちゃんってステキだなって思ったんです。
「ホテルに行って何するの?」って、お兄ちゃんが聞いた。
「うん。えーと部屋を見て、お話するの。それだけ」って、あたしは答える。
「ふーん。変なの」って、お兄ちゃんは微笑んだ。
「今ね、学校で流行ってるの。社会見学ってところかな?」
そして、お兄ちゃんはこう言ったんです。
「で、栞はプロジェクトCやったことないの?」って。
「ないない!そんなとこ行ったこともないし。だからちょっと興味があるんだよね」
あたし、そんなことを言いながら、実はとてもドキドキだった。
「うん。でもだめだよ、栞。俺は連れて行かないよ……」
そう言って、お兄ちゃんは優しく笑っていた。
あたし、そんなお兄ちゃんを見て、安心したんです。
このひとは、あたしをきっと大切にしてくれる。
そんな気がしたんです。
お兄ちゃんとあたしは、新宿中央公園を散歩した。
プロジェクトBってことで。
カップルを見学しようって、あたしが言ったんです。
「ねぇ、お兄ちゃん見て!すごいよ!」
あたし、カップルがこんなにイチャイチャしてるの見るの、初めてだったんです。
あーっ、ドキドキする……。
「ねぇお兄ちゃん、やっぱりカップルらしく見せないとヤバくない?」
あたしは、そう言いながら、お兄ちゃんの手を握ったんです。
あっ。
お兄ちゃんの手、あったかい。
あたし、そのとき気づいたんです。
あたし、お兄ちゃんのことが、大好きだって。