『恋愛小節1990~Girl's Side』
第2章 栞(しおり)の場合
その1
あたしは……。
お兄ちゃんの、目が好き。
くっきり二重に、フサフサまつげ。
あたしなんかより、全然長い。
まばたきすると、バサバサと音がしそうなくらい。
きっと、マッチ棒だって簡単に乗りそう。
そんな目で、見つめられたとき。
あたしの胸は、キュンってして、熱くなったんです。
友達と一緒に、京都、神戸、大阪をまわる旅行に行ったとき、あたしはお兄ちゃんに出逢った。
食事をするために入ったファミリーレストランで、お兄ちゃんは撮影をしていたんです。
あっ。
カメラマンって、やっぱりかっこいい。
あたし、そんなお兄ちゃんに見とれていたんです。
なんだか、撮影が終わったみたい。
そのとき、お兄ちゃんがチラって、あたしの方を見た。
あたしは思わず、お兄ちゃんに手を振っていたんです。
そのとき、お兄ちゃんは、ニッコリと笑ってくれた。
あたし、その笑顔がとてもうれしかったんです。
あたしは、撮影機材を片付けているお兄ちゃんのそばに座って、お兄ちゃんのことをじっと見てた。
「こんばんは。ねぇ、テレビの撮影? カッコいいよね、カメラマンって」
あたし、お兄ちゃんに、そんな風に声をかけたんです。
照れたように笑うお兄ちゃんを見て、あたしは楽しくなった。
そのあと、あたしたちは、みんなで一緒にプールバーに行くことになったんです。
あたしは、お兄ちゃんのそばに付いて歩いた。
「名前なんていうの?」って、お兄ちゃんがあたしの名前を聞いてくれた。
あたしは、ちょっとドキドキしながら、答えたんです。
「栞……。加藤栞です」って。
あたしは、ちょっとだけビリヤードをして、あとは、ボーっとみんなの姿を見ていたんです。
あんまり得意じゃないし、つまんないな、ビリヤード……。
あっ。
お兄ちゃんが、ひとりでカウンターに座ってる。
あたし、勇気を出して、お兄ちゃんの隣に座ったんです。
そして。
お兄ちゃんの肩を、トントンって叩いた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。写真のこと教えてよ。あたし、大好きなんだ!」
お兄ちゃんは、ちょっとびっくりしたような顔をしたけど、優しくいろいろなお話をしてくれたんです。
あたし。
そのとき、とても居心地が良かったんです。
お兄ちゃんと話してると、安心できるっていうか……。
この感じって、一体なんなんだろう?
あたしは、いつの間にか、自然に自分のことを、お兄ちゃんに話していたんです。
普段は、あんまり人には、こんなこと話さないんだけど……。
そのとき。
きっと、お兄ちゃんは、あたしにとって特別なのかも、って思ったんです。
すごく安心できて、すごく居心地がいい。
逢ったばかりなのに、不思議だな……。
「あのね、お兄ちゃん。相談に乗って欲しいことがあるの……」
あたしは、いま抱えてる大問題についても、お兄ちゃんに話していたんです。
先輩のことは、もうあきらめなきゃってことくらい、あたしにだって分かっていた。
でも……。
由加子と先輩が付き合い始めたって聞いたとき、あたしは、本当にショックだったんです。
でも……。
やっぱり、由加子とは友達でいたかった。
こんな話を聞いてもらっても、結局どうしようもないって、あたしにだって分かってる。
でも……。
お兄ちゃんは、ちゃんとあたしの話を聞いてくれた。
それだけで。
あたしは、救われた気がしたんです。
あたしは、お兄ちゃんと明け方までいろんな話をした。
「お兄ちゃん、電話番号教えてよ。栞のはね、えーと……」
あたし、またお兄ちゃんに逢いたいって思った。
だから、自分からお兄ちゃんの電話番号を聞いたんです。
そして、お兄ちゃんにお願いした。
「また、東京で。絶対に逢ってよね」って。
あたし、お兄ちゃんの手を握りながら、お願いしたんです。
「うん。じゃぁ、東京でね」って、お兄ちゃんは指きりしてくれた。
旅行から帰って、あたしはすぐお兄ちゃんに電話をした。
でも、いつも留守番電話だったんです。
やっぱり、忙しいのかな……。
あたし、留守電にメッセージ入れるのってキライ。
っていうか、苦手なんです。
でも……。
「…あっ。加藤栞です。昨日は、ありがとうございました。楽しかったです!」
うんっ。
すごく緊張するっ……。
「えーっと、来週あたりまた逢ってもらえないでしょうか?……また連絡します。バイバイ!」
あたしは、ドキドキしながら電話を切った。
また、今度電話してみよう。
だって。
あたしは、絶対に、またお兄ちゃんに逢いたいって思っていたから……。