『恋愛小節1990~Girl's Side』
第1章 沙樹子の場合
その3
あたしたちは、池袋北口駅前にある、イタリアンレストランに向かった。
もちろん、手をつないで。
地下に降りる階段は、狭くて急だったけど、入り口を入ると、その店は思ったよりも広かった。
イタリアンのコース料理を食べながら、あなたはまた、いろいろな話をしてくれた。
あたしが残した留守電のメッセージを聞いて、感じたこと、心配したこと、うれしく思ったこと。
逢えない時間は、とても寂しかったけど。
あなたのそんな気持ちが、あたしはとてもうれしかった。
「面白い店があるんだ。一緒に行こう」 って、あなたは言った。
あたしは、ちょっと考えていた。
午後10時13分、か。
今日は、もしかしたら帰れないかもしれない。
でも。
あたしは、それならそれでもいいって思っていた。
だから。
「うん。連れていって」って、言ったの。
その店は、薄暗い階段を下りた地下にあった。
ドアの向こうから、レゲエの大きな音が聞こえていた。
低音が、おなかに響く。
ちょっと怖い……。
あたしは、あなたの顔を見る。
あなたは、ニッコリと笑ってくれた。
だから。
あたしは、少し安心できたの。
フロアを横切って、奥にあるボックス席に座った。
音が大きくて、普通には話が出来ない。
でも。
あたしは、あなたに近づくようにして、一生懸命話を聞こうとしたの。
「あのさぁ、ひとつだけ聞きたいことがあってさ」と、あなたが叫ぶように言った。
「えっ、なに?よく聞こえない」
あなたは、あたしをを引き寄せて耳元でこう言った。
「サッコってさぁ。B型だよね、血液型」
「そう。ひろちゃんA型でしょ?合わないんだよね、AとBって」
あたしは、あなたがA型だって分かってた。
だって、分かりやすいんだもん。
あたしは、A型の男の人と付き合ったことはなかった。
BとAって合わないって、何かの本で読んだことがある。
でも。
あなたとなら、きっと大丈夫。
あたしは、いたずらっぽくあなたに言った。
「B型女に、ひどい目にでも遭わされた?」
そしてあたしは、深呼吸をして、思いっきりの勇気を出してこう言ったの。
「あたしが幸せにしてあげるから、大丈夫だよ……」
「踊ろうか」
あなたは、あたしの手を取ってフロアに連れ出した。
あなたは、あたしをギュっと抱きしめながら踊ってくれた。
胸が、ドキドキする。
あたしは、あなたの目をじっと見つめていた。
「この曲知ってる?」と、あなたがあたしの耳元でささやく。
あたしは、首を左右に振る。
そしてあなたは、あたしの目をしっかりと見つめて、こう言った。
「Lovin'You」
そしてあたしたちは、初めてのキスを交わした。
もう電車がない時間なのは、分かってた。
でも、そのことには気づかない振りをしていた。
「サッコさぁ、もう帰れないんじゃないの? 大丈夫?」
あなたは、ホントに焦ったように、そう言った。
「帰れないよ、もう…」
あたしは、ちょっと困ったような顔をして、あなたを少し心配させてみた。
「あした、朝7時から仕事なの」と、あたしはあなたに言った。
あなたは、少し考えているようだった。
そして、あたしをもう一度ギュって抱きしめながら、こう言った。
「朝までふたりっきりで一緒にいたい。悪いことはしないから…」って。
その言葉にあたしの胸は、すごく熱くなった。
でも、平気な顔をしよう、しようって思ってた。
だって。
すごく恥ずかしかったから……。
お店を出たあたしたちは、池袋の街を歩いた。
あたし、少し酔ってるみたい。
さっき飲んだ、ワインクーラーが効いたのかな?
だから。
あなたに自然と寄り添うように歩いたの。
そのホテルは、普通のビジネスホテルみたいに見えた。
そして。
あたしたちは、そのホテルの部屋に入る。
でも……。
その部屋には、大きなベッドが、ひとつしかなかった。
あたしは、ベッドに腰掛けた。
そして。
あなたが、あたしの隣に、ゆっくりと座った。
そして少し時間を置いて、こう言ったの。
「シャワー…浴びてくれば?」って。
「えっ…。あたしそんなつもりじゃ……」
あたし、ドキドキしてる……。
「分かってるよ。だって汗かいたでしょ?」
「そうだけど……」
あなたの真剣な顔を見たとき、あたしは覚悟を決めたの。
今度こそ、勇気を出そう、って。