『恋愛小節1990~Girl's Side』
第1章 沙樹子の場合
その2
あたしたちは、高速道路を横浜に向けて走っていた。
窓の外を流れる景色が、いつもより速く感じられる。
でも。
メーターを見ると、針はぴったり100のところを指していたの。
「ねぇ。けっこうスピード出てると思ったけど、100キロなんだね?」と、あたしは聞いた。
「まあね」と、あなたは答えた。
ふーん、これで100キロなんだ。
でも……。
「ねぇ。やっぱりちょっと速くない?ちょっと怖いよ」
そう言ったあたしに、あなたはこう言った。
「このメーターってマイル表示なんだよね」って。
「えっ?マイル、って?」
マイルって、確か1.6倍?
ということは、160、キロ?
「信じらんないっ!」って、あたしは、ほっぺをふくらませた。
「ごめんごめん」って謝るあなたは、とても楽しそうに笑っていたよね。
「どこに行きたい?」って、聞くあなたに、
「じゃあ、中華街に行きたいな。ライチが買いたいの」と、あたしは答えた。
中華街の入り口で、あなたが急に手をつないで来た。
あたしは、ちょっとびっくりした。
そして心臓が、急にドキドキしはじめたの。
あなたは、ちょっと強引。
でも……。
そんな強引さが、ちょっとうれしかった。
あなたと一緒に食べた点心、おいしかったな。
とくに、蟹焼売なんて、最高!
そのあと、あたしたちは山下公園に行った。
ベンチに座って、一緒に海を見た。
春の日差しって、暖かくって気持ちがいい。
あなたは、自分のことや仕事のことを、ゆっくりと、ちゃんと教えてくれた。
あなたの声を聞きながら、わたしも自然に素直になれた気がするの。
今までのあたしは……。
自分のまわりに、いつの間にか壁を作ってたと思う。
素直になれないっていうか、意地を張っちゃうっていうか……。
でも。
あなたとなら、素直な自分でいられるかもしれない。
ニコニコ笑うあなたの顔を見ながら、あたしは、そのとき確かにそう思ったの。
そのとき、あなたが突然こう言った。
「俺、君の声が好きみたいなんだ」って。
えっ?
あたしの声、が?
「そんなこと言われたの、初めて。あたしも……あなたの声が好き」
あたしは、勇気を出してそう言ってみた。
それからあたしたちはまた、中華街を歩いた。
手をつないで、歩いた。
そして、あたしは決心していた。
不安だけど、あなたと始めてみよう、って。
春の日差しは、暖かくって気持ちがいい。
そして。
あたしの心も、あなたと一緒にいると温かい。
そのことに気づいたあたしは、思ったの。
あなたとなら、きっと大丈夫だって。
そのときは、確かに……。
あたしは、あなたに、またすぐに逢いたくなっていた。
でも。
あたしも、あなたも忙しくて。
なかなか逢う時間が、作れなかった。
あたしは、あなたに電話をする。
留守番電話に、メッセージを入れる。
メッセージを入れるのは、ホントはとても苦手だけど。
あなたに、あたしが感じたことを伝えたかったから。
そして、一ヶ月の時間が経った。
池袋東口、午後8時の待ち合わせ。
あたしは少し遅れて、待ち合わせ場所に走った。
あっ、いた。
フラワーショップで花を見ていたあなたに、後ろから声をかける。
「ごめんね、遅れて…。ひろちゃん。久しぶりだね!」
あたしとあなたは、やっとまた逢えた。
あたしは、とてもうれしかった。
あなたは、あたしの肩に手を伸ばして、やさしく引き寄せた。
そして耳元で、こうささやいたの。
「サッコ、待たせてごめん。早く逢いたかった」って。
あたしは、うれしくて、こう言った。
「あたしも……そうだよ」
「俺は、お前のことが、いま一番大切なんだ。ずっと一緒にいてくれないか?」
あなたのこの言葉を聞いたとき、あたしの中の何かがプチってはじけた。
あたしも、あなたとずっと一緒にいたい。
あたしは、あなたの目を見ながら、ゆっくりとうなずいた。