38 『君と出逢えた、いくつもの偶然と幸運』
急に打合せがキャンセルになって。
ぼくは、渋谷の街で途方に暮れていた。
そういえば、今日だったっけ?
ぼくは、今夜。
渋谷のクラブで、あるパーティーが行われることを思い出していた。
そのクラブに入ると、まだまだ客は少なかった。
だから、ぼくは。
フロアのすぐ横にある、数少ない椅子に座って。
DJが繋ぐ、ハウスを聴き流しながら。
いつものように、ケータイで小説を書いていたんだ。
そのとき。
ぼくは、フロアに立つ君の姿を見つけた。
昨日の夜。
君とぼくは、麻布十番で初めて逢った。
全然、話が出来なかった君と。
また今夜、ぼくは偶然に逢ってしまったんだ。
実は、昨日の夜も。
君のことは気になっていたんだけど。
でもなぜか、ちゃんと話すキッカケがなかったんだよね。
「また逢いましたね!」
だから、ぼくは。
今夜こそ!って、君にそんな風に声をかけたんだ。
お互いに、居心地が良いかどうかなんて。
この歳になれば、雰囲気だけで一瞬にして分かってしまうから。
君とぼくは、椅子に座ったまま。
長い時間、話をした。
あんな喧騒の中でも。
君と過ごす、落ち着いた時間が。
ぼくには安らかで、心地良かったんだ。
ひょんな話から、ぼくの小説を君に見せることになって。
その短編小説を読み終えた、君は。
ぼくが恥ずかしくなるくらい、感動してくれた。
あぁ、この子は心もキレイなんだって。
いつの間にか、ぼくは君をじっと見つめてしまっていた。
帰りぎわに、君は。
「ありがとう!あなたのお陰ですごく楽しかった!」と笑った。
それは、こっちのセリフだよって。
ぼくは、心の中でそう呟きながら。
君と出逢えた、いくつもの偶然と幸運に。
素直に感謝していた。
『君と出逢えた、いくつもの偶然と幸運』
了