31 『この場所から、もう一度』
君から、久しぶりに電話が来たとき。
ぼくは、ちょうど横断歩道を歩いている途中だった。
表参道の、その交差点は。
偶然にも、君との思い出の場所だった。
ぼくは、そんな不思議な偶然に戸惑いながらも。
それでも、すぐに電話に出る。
「もしもし。久しぶりだね……」
久しぶりに聞くはずの君の声が。
あまり、懐かしくは感じない。
それはきっと、ぼくの気持ちがまだ。
君に、近いままだから。
ちょっと、悔しいけれど。
それは、紛れもない事実なんだ。
「ねぇ、久しぶりに逢わない?」
君は、無邪気にそう言うけど。
ぼくは嬉しいような、困ったような。
そんな、変な気分だった。
君とは、別れたはずなのに。
君は、何事も無かったかのように。
無邪気に、ぼくを誘う。
ぼくにしたって。
まだ、君のことを近くに感じてしまっているんだけど……。
って言うか、これって別れてなくね?
ぼくは、君との微妙な関係を不思議に感じていた。
この交差点で。
ぼくたちは、出逢って。
そして、同じこの場所で。
君は、ぼくとの未来を否定した。
ぼくだって、君を愛するのは。
もう、やめようと誓ったのに。
それでも、ぼくたちは。
まだ、お互いのことを求め続けているんだね。
「いいけど、何か俺にイイことしてくれるの?」
君に、そんな冗談半分の返事をしたぼくに。
「うん!もちろんタップリ!」と、君も冗談で返す。
君は、最高だよ……。
やっぱり。
君とは、ずっと離れられないのかもなって。
ぼくは、苦笑いする。
そのとき。
何気なく振り返った交差点の向こう側に。
ぼくは、君の姿を見つけた。
あっ……。
そのとき、ぼくは思ったんだ。
もう一度、君と。
ちゃんと始められるだろうか……。
ぼくは、まだ気づかない君に向けて。
ゆっくりと手を振った。
『この場所から、もう一度』
了