8  『猫耳の彼女』


その日、ぼくは。


渋谷で行われた、ハロウィーンのパーティーにいた。



行くかどうか、さんざん悩んだくせに。


そのうちぼくは、なぜか。


やっぱり、今日は行かなければダメなんだ!


なんて。


そんな気になっていた。



仕事帰りに、パーティーに合流したぼくは。


いつものようにまた、仮装の道具を持っていなかった。



いつも、そうなんだよな……。


みんなが、楽しそうに仮装してるのを見ながら。


ぼくは、少しだけ後悔していた。



仮装とか、実は苦手なぼくは。


いつも悩んで、何もしないことが多い。



そんな風には見られていないらしい、ぼくだけど。


本当にぼくは、勇気がないのだ。



大げさに女装するとか、そこまではしないにしても。


今度からは、せめて猫耳くらいはつけてみようかな。


なんて。


ぼくは冗談で、そんなことを考えていた。



「やぁ、元気?」


ぼくは知り合いの彼女を見つけて、声を掛ける。



あれっ?


猫耳じゃん!



彼女は、偶然にも猫耳をつけていた。


うん、かわいい!w



「あっ、お友達紹介しますね!」と。


彼女が紹介してくれたのが。


君との初めての出逢いだった。



君は。


例えれば、真っ白い猫みたいな女の子だった。


真っ白い猫耳をつけて、真っ白い肌をして。


そして、猫みたいな切れ長の瞳がキラキラと輝いていた。



キレイな子だな……。


ぼくは、素直にそう思った。



ちょっと人見知りな君は。


すぐに声を掛けられてしまう人気者の友達に、置いて行かれてしまっていて。


ちょっと不安そうな顔で、フロアに佇んでいた。



ぼくは、そんな君のことが。


いつの間にか、気になり始めてしまっていたんだ。



「あっちで、座って話さない?」


そんな風に、勇気を出して声を掛けたぼくに、君は。


「あっ、ハイッ!」って、驚いたように答えた。



それから、ぼくたちは。


いろいろな話をした。



就職活動が始まっている彼女は。


自分に自信が無い、と不安そうな顔で言った。


そして絶対に叶わないけど、と言いながら。


自分の夢を教えてくれた。



確かに、自分に自信を持つのは難しい。


いまのぼくだって、自分に自信なんて持てないし。



だけど。


夢は叶うって思わない限り、絶対に叶う訳がない。



ぼくは、君の不安が少しでも軽くなるように。


君が、自分に自信を持てるキッカケを見つけられるように。


そして。


夢は絶対に叶うと信じられるように、って。


気がつくとぼくは一生懸命、君にいろいろな話をしていた。



君に話をすることで。


ぼく自身も、自分の考えを見つめ直すことが出来る。



そして、ぼくの言葉で明るく変わって行く君の表情が。


ぼくに、勇気をくれていたんだ。



ぼくは、今日。


この場所に来た意味が、やっと分かったよ。



偶然の出逢いは、いくらでもあるけど。


もちろん、誰でも良いって訳じゃない。


君との出逢いが、ぼくにとって。


きっと、この先も力をくれる大切なものなんだって。


そのときぼくは、確信していた。



だから、君と。


今度は、ゆっくりふたりきりで話をしたいな、って。


ぼくは、君の猫耳を見ながら思う。



そして、出来ることならば。


これから、ずっと先まで君のことを。


見守って行けますように、って。


祈りながら。



「今度は、猫耳でもつけてみようかな?」と、言うぼくに。


君は今夜、一番素敵な笑顔で応えてくれた。



ハッピーハロウィーン!



『猫耳の彼女』