5 『思いっきりお願いします!と、ぼくは言った』
君と、ふたりきりで逢う。
そんな、夢みたいことは。
絶対に、有り得ないことなんだって。
そんな風にぼくは、ずっと思っていたんだ。
時間が経てば、ただの他人になってしまう。
君と、ぼくとの関係は。
そこからは決して広がらない、って。
そんな風に、ぼくは諦めていた。
でも。
ひょんなことから、君と飲みに行くことになってしまったぼくは。
まるで夢を見ているような気分で、待ち合わせ場所に立つ。
百戦錬磨の、ぼくのくせに。
珍しく、胸がドキドキしていた。
そして。
待ち合わせの時間ぴったりに、ぼくのケータイにメールが届く。
君からだ!
「いま着きました。西口の改札前にいます(*・_・*)」
ぼくは急いで、西口の改札前に向かう。
ぼくは、君のことをすぐに見つけた。
だって。
やっぱり、普通の女の子とはオーラが全然違うし……。
そんな君の姿に、ぼくは。
しばらくの間、見とれてしまっていたんだ。
「……久しぶり!元気だった?」
そんな風に、冷静を装って声を掛けたぼくに。
君は、最高の笑顔で応えてくれた。
うわっ!
マジでカワイイ!
ヤバい……。
これは、やっぱり夢じゃないのだろうか?
だって。
やっぱり、君とふたりきりで逢えるなんて信じられないよ!
でも。
夢のようだけど、これは夢じゃないんだ!
ぼくは、努めて冷静なフリを装いながら。
君の瞳を、じっと見つめてニッコリと笑った。
ぼくは、駅の近くにある店に君を連れて行く。
半個室の、4人掛けのテーブルの。
角を使って、ぼくたちはふたり並んで座った。
君は、シャンパンのグラスを傾けながら。
ニコニコしながら、最近楽しかった事を屈託なく口にした。
ぼくは、ジンジャーエールを飲みながら。
そんな君の、キラキラ輝く瞳を見つめていた。
みんなが知ってる君とは違う、本当の君が。
ぼくの目の前に、座っていた。
でも、やはり。
結果的には、君って。
ぼくには手の届かない存在なんだよな、って。
ぼくは、一瞬冷静になる。
でも、本当にぼくは君のことを……。
そのとき。
「ねぇ、何で今日まで誘ってくれなかったの?」と。
君が、ぼくの目をじっと見つめながら言った。
ぼくは、少しの時間を置いたあとに。
「だって、さ。ふたりきりで逢ったら、さ。本気になっちゃうと思ったから、さ」
ぼくは、どぎまぎしながら。
そんな風に、冗談ぽく言ってみた。
それは、もちろんぼくが、という意味で。
君は、微笑みながらこう言った。
「……それって迷惑、かな?……あたし、本気になっちゃダメ、かな?」
へっ?
ぼくは、君の意外な言葉に呆然とする。
恥ずかしそうに笑う君が、マジで眩しかった。
ぼくは、ひとつ深呼吸をして。
首を横に振る。
そしてぼくは、勇気を出して。
君の耳元で、こう囁いたんだ。
『思いっきりお願いします!と、ぼくは言った』
了